ヒーターズの2ndアルバム「ブルー」
小川哲郎(ジ・オーパーツ)
のレビューをお届けします。
ヒーターズの「ブルー」。なんて体を表した名前だろう。深い水の濃い青や、夜空のほとんど黒に近い青、孤独、疲労、寂しさについてサウンドがいろいろ語りかけてくる。教えてくれる。慰めて、隣にいてくれる。安心する。暖めてくれている。今僕がこの音を聴いているのが全く偶然に思えないから、驚いています。
とても好きな音です。前にこんな気持ちになったのは、いつだろう。
いつだったか、沢山、それこそクタクタになるまで遊びまくって、ふと我に返った時に、あれ?と思う。なんだったっけ、何してたんだっけ。答えは、疲労感からくる体の重さが思い出させてくれる。そんな時にはちょうど都合よく、夕暮れが一日の終わりを告げて、包みこんでくれる。じきに夜がやってきて、生温い風を感じながら星空を眺めている。…それはいつだったか、でもきっと確かに私にあった記憶をもとに、それを美化した心地よいストーリー。
歌っている伊藤圭くんの事に想いを馳せる。彼は確か都会で暮らしていたと言ってた。地方都市の松本にやってきて、音楽の好きな仲間をみつけて、一緒にバンドをやったり、夏の間は山小屋で働いている。音楽の話をする時、彼はいつも無邪気な子犬の様に嬉しそうだ。彼の中にこんな音楽が鳴っているなんて、なんて素敵なことだろう。きっと彼らの経験や生活が、サウンドにリアリティを刻み込んでいるに違いない。きっと素直な分だけ、エッヂも効いているんだ。
どこか不安をおびた懐かしい情景が、曲が進むごとにいくつも浮かんでくる。
たぶんギターが二本鳴っているはずなのに、そこにはまるでギターがない様だ。電気的な弦の振動が、耳から入り込んで、すぐさま記憶や気持ちの居場所をみつけてそこを撫でつけてくれる。時折ノイジーに、揺らいで不協和音が唸ったりしてる。不安定で感覚的な要素を取り入れる事で、まるで逆説的にグルーブがリアリテイを放っている。発見だ。
次に、またこれを聴いてみたら、どんな気持ちになるんだろう。そう思って、もう一度頭から聴いてみる。やはり心(そう呼ぶべき場所)が、温められているのがよくわかる。彼らの優しさに包まれているのがわかる。
きっとこの音を必要としている人が、特に現代には沢山いるんじゃないかと思えてならないです。
そうした人たちへ、ふとしたことで、この音が届く事を願っています。
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ジ・オーパーツ
小川哲郎
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